リチウムイオン電池とリチウムイオンキャパシタの安全性
バッテリーや蓄電装置は、充電が早い、長持ちする、などといった基本的な特性が求められるのは勿論のこと、安心、安全に使える、ということが絶対に外すことのできない条件です。
今回は、リチウムイオン二次電池(以下、リチウムイオン電池)とリチウムイオンキャパシタの安全性についてご紹介します。
リチウムイオン電池の安全性
リチウムイオン電池を搭載したパソコンやスマートフォンが発熱したり発火したり、といったニュースを一度は耳にしたことがあるかと思います。これらの事故の原因は、外から加わった力の場合もあれば、電池そのものの不良の場合もありますが、その殆どにおいて、正極と負極との間のショート(短絡)が発熱・発火の直接の引き金となっています。
正・負極間がショートすると、大量に流れる電流によって、局所的な発熱が生じ、これを受けて負極と電解液との間の反応へと繋がります。ここで収まる場合もありますが、発熱が200℃前後まで達してしまうと、今度は正極材料である金属酸化物の結晶が崩壊して酸素が放出されます。こうなると、この酸素が燃料となって、さらなる熱発生のモードへと突入していきます。いわゆる「熱暴走」と呼ばれる現象です。そして最悪の場合、破裂・発火といった事故に至るわけです。
ショート原因とその対策
外部的な要因以外で起こる正・負極間のショートとは、どのようなケースで起こるのでしょうか?
その一因と考えられているのが、リチウムイオン電池の製造プロセスにおける、金属や炭素材料などの微細な粉の混入です。これらの微粉が混入した場合、新品の状態では何事もなかったものが、繰り返し使用による電極の膨潤・収縮により、両極間を隔てているセパレータを突き破り、ショートに至る、というものです。
ショートの原因となるのは、混入物質ばかりとは限りません。リチウムイオン電池を構成する材料がデンドライト(針状結晶)という形に姿を変えて、セパレータを突き破ることもあります。その1つがリチウムデンドライトです。リチウムイオン電池は正負極間のリチウムイオンのやりとりで充電・放電を繰り返しますが、電極の一部に不均一な部分があるなどして、そこに電流が集中すると、リチウムがデンドライトの形で電極表面に析出してくる、という現象が生じます。このリチウムデンドライトがセパレータを突き破るまで成長するとショートに至るわけです。
ショート要因となるデンドライトはこれだけではありません。リチウムデンドライトほど世の中には知られていませんが、銅のデンドライトも要注意です。
LIBの負極では集電体として銅が使われています。銅は通常の状態では金属として安定に存在しますが、LIBが定格で使われる電圧を下回って過放電の状態になると、負極の電位が上昇し、それが銅の溶出電位を超えてしまうと、金属からイオンの形になって、電解液の中に溶け出します。この状態で充放電が繰り返されると、イオン化した銅がデンドライトとなって析出し、ショートの原因となる場合があるのです。
以上のようなショート要因を取り除くため、リチウムイオン電池メーカーでは異物の混入防止、検出精度向上、デンドライトの発生しにくいセル設計、プロセス設計などに細心の注意を払っています。
加えて、万一ショートが発生しても、破裂・発火に至らないよう、セパレータに熱によるシャットダウン機能を持たせるなどの様々な工夫を凝らしています。
リチウムイオンキャパシタの安全性
リチウムイオンキャパシタ(LIC)とは、一般的な電気二重層キャパシタの原理を使いながら負極材料として リチウムイオン吸蔵可能な炭素系材料を使い、そこにリチウムイオンを添加することでエネルギー密度を向上させたキャパシタです。
このリチウムイオンキャパシタはリチウムイオン電池に比べると安全性の高いデバイスと言われていますが、それには幾つかの理由があります。
理由の1つは正極材料の違いです。先ほどリチウムイオン電池の「熱暴走」についてご説明しましたが、正極に金属酸化物を用いるリチウムイオン電池とは異なり、リチウムイオンキャパシタの正極材料である活性炭には熱暴走の燃料となる酸素が存在しませんので、仮にショートが起こっても、連鎖的な反応モードに至ることなく終息していきます。
2つめの理由は銅のデンドライトの析出が起こらないことです。リチウムイオンキャパシタでは負極に予めリチウムイオンがドーピングされており(リチウムプレドープ)、充放電の際、負極はリチウム電位に近い、極めて低い電位を行き来します。仮にLICが定格電圧範囲を超えて過放電状態となっても、負極電位が銅の溶出電位近くまで上昇することはないため、銅のデンドライトが析出するリスクも極めて低いと言えます。
3つめの理由は持っているエネルギーの違いにあります。リチウムイオンキャパシタは電気二重層キャパシタ(EDLC)などのキャパシタの中では極めてエネルギー密度の高いデバイスですが、リチウムイオン電池に比べると1桁ほど低いのが現実です。仮にショートにより持っているエネルギーが一気に放出された場合でも、その威力はリチウムイオン電池よりも1桁低い、というわけです。
リチウムイオンキャパシタの安全性のまとめ
いかがだったでしょうか?リチウムイオン電池とリチウムイオンキャパシタの安全性についてご紹介しました。
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